
この本がなかったら、あたしは日記など書いていない。
10歳の10月から始めた日記。
この10月にあたしは25歳になる。
人生の半分以上を文字に刻んで来た。
いつかあたしがアウシュビッツに収容されて毒ガスで殺されても、
後世の人に生きていたあたしの証を残すため。
本当にその想いだけで毎日日記を書いている。
アンネみたいになりたいのだ。
他愛もない日記を世界中の人に必死になって読まれるような人間になりたいのだ。
でもそんな他愛ないだけではない。
彼女の日記には溢れんばかりの希望と向上心がある。
そういうところもすごく影響を受けているのだ。
うまく想像もできないけど、
屋根裏で生きて、絶望的な社会の中で、こんないい子でいられる?
あたしなんてやさぐれて酒や煙草に走ってしまいそうだ。
両親や兄弟だってこんなに大切にできるだろうか。
本当に彼女は聡明で明るく朗らかで、そういう人柄も人類の財産なのだろう。
初めて読んだのは児童向けのマンガだったと思う。
世界の偉人の伝記マンガ、みたいな。
キュリー夫人とかエジソンとか、いろんなのを読んだ。
あのシリーズは本当に素晴らしい。
あたしの子供にもぜひ読ませたい。
あの頃に受ける影響力というのはとても強烈で鮮明なのだ。
さらにあたしはアンネの日記のミュージカルも観た。
奥菜恵がアンネの役をしていた。
ステージの上に作られた屋根裏部屋のセット。
そんなものを視覚聴覚織り交ぜて、あたしはふんだんに吸収してきた。
だから、今でもこの小説はとても身近に感じる。
困ったり悩んだりした時にパラパラめくっているだけで、
珠玉のような言葉に出会ったりもする。
あたしの日記もいつかそのようになればいいのだけど。
でもそんなこと考えながら日記は書けない。
ただ、ありのままの毎日を刻むのだ。
今日も、明日も。


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