
この本の最大の魅力は、大勢の方から見た佐野さんを知れることではなくて、佐野さんの周りにいた方々の魅力を知ることができることである。
中でも特記するべきは、谷川俊太郎さんと広瀬弦さんの特別対談である。
佐野さんのエッセイは読み漁ったので、佐野さんについてはたくさん知ったような気になるが、その中にたくさん登場してくる人物のことをもっと知りたくなる。
二番目の夫である谷川俊太郎さんと、息子である広瀬弦さん。
だって佐野さんは、谷川さんと別れた後も、谷川さんのことを好き勝手隠し、弦さんのことも、そう。
谷川さんが本当に佐野さんのこと大好きだったんだろうなあ、ということと、弦さんと谷川さんは、なんだか良い距離感なんだなあということが分かった。
佐野さんの愛情が100%弦さんに注がれていて、それが鬱陶しかったタイミングで谷川さんとラブラブになってくれたおかげで、弦さんは助かったと言っていた。
弦さんの「お礼」はワクワクとドキドキのオンパレードだった。
中でも知れて一番嬉しかったのは、弦さんがなぜ広瀬弦と名乗っているか、の、謎が解けたことだ。
そうだったのか、ふむふむ。
離婚によって、「さのげん」という屋号のような名前になってしまったこと、母親とともに作品を作るときに、コネだと思われないようにしたかったこと。
あと、この本にエッセイを書いてくれた人みんなに対して、弦さんが、2~3行ほどのお礼の文章を書いていたのも素敵だった。
特に、鶴見俊輔様。森毅様。難しい話に佐野洋子をまぜていただき、ありがとうございました。という文章が秀逸だ。
他にもハッとした読み物がたくさん。
「引き出しの中から」というのは、佐野さんの死後に発見されたものらしくて、佐野さんのエッセイには載ってないから、読むのは初めて。
「船旅日記」はとってもドラマティックだった。
直筆のページも見れて嬉しいし、神経症を患いながらの、一人の豪華客船船旅。
流石に目の付け所がシャープすぎる。
上下巻セットでもずっと読み続けたい日記だ。最高だ。
体調はものすごく悪いだろうに、そんな弱さを微塵も感じさせない文体。
ところが船旅日記は尻切れトンボで終わる。
え?まさか?と思ったらなんと、旅の途中で、バリで下船して、そのまま飛行機で帰ってきたらしい。
43日の船旅が11日で終わったのだ。かっこ良すぎる。
「卵、生んじゃった」というエッセイは、最高。
なんだこれ、なんでこんな下品な話を私はわき目も振らず真剣に読んでいるのだと一人で笑ってしまった。
佐野さんだって体調が悪くて辛いはずだし、笑ったらいけないんだろうけど、こればっかりはしょうがない。
ただの神経症の頃の大便観察日記である。
『問題があります』ちくま文庫 2019・2に掲載されているようだが、手元の『問題があります』筑摩書房 2009年初版には載っていない。
この本で読めてよかった。
舞台の脚本も書いていたらしい。
『自転車ブタがやってきて・・・』という作品の第一幕の脚本が読める。
すごい、絵が浮かぶ。かわいい。
会話がやはり佐野さん節なのだ。ちょっとさくらももこ感がある。
そっけないのに、愛情がある感じ。とても好き。
関川夏央さんの言う、「大陸育ちの文学者、佐野洋子」のフレーズは、非常に胸にすっと染み込んでくる。
「IBM USERS」に掲載されていたらしいエッセイが、また美しい。
「とても小さい唇」で描かれる女も、「しーん」で描かれるアキラも、とてもリアルなのだ。
これは多分、作り話ではなくて、佐野さんが見た世界を切り取っただけの文章なのだ。
見え方と、切り取り方が、普通の人にはできない技法なのである。
そしておそらく佐野さんも工夫を凝らしてそうしているわけではなくて、ただそのように見えているのだろう。
「ドーナツ」というエッセイと、「ねえさんの来る日」という童話も素敵だった。
なんでも書けちゃうんだ、と思った。
あと、『シズコさん』と『私の猫たち許してほしい』は買わなくちゃいけない、と強く思った。


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